〈訴訟1〉控訴審判決のお知らせ


2023年8月29日、東京高等裁判所にて合同会社カオスラ(以下、カオスラ)が安西彩乃さんとnote株式会社に対して提起した訴訟※1の控訴審の判決が言い渡されました。

判決では、双方の主張が棄却となり、残念ながら安西さんが主張する黒瀬陽平氏と社員F氏・スタッフK氏による組織的な退職勧奨の事実は認められませんでしたが、カオスラが否認する黒瀬氏のセクシュアルハラスメントについては第一審判決に引き続き事実認定されました。

安西さんはこの判決の敗訴部分を不服として9月13日に上告を行いました。また、カオスラ側も9月8日に上告受理申立を行いました ※2 。今後、上告提起通知書の受領から50日以内に、安西さんは上告理由書を、カオスラ側は上告受理申立理由書を最高裁判所に提出する予定です。

※1 この訴訟は、2020年8月1日に安西さんが発表した告発記事の内容が名誉毀損にあたるか否かが争点となっており、告発記事の内容のうち、黒瀬氏によるセクシュアルハラスメントおよび社員F・スタッフKによる退職勧奨があったかどうかについて審議が行われてきました。 2023年2月24日に東京地方裁判所で言い渡された第一審判決に、双方が控訴する形で控訴審が行われていました。

※2 上告提起と上告受理申立ての違いについてはこちらを参照ください。(裁判所ウェブサイト:https://www.courts.go.jp/sendai-h/saiban/tetuzuki/jokoku_teikijuri/index.html


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主文
1  一審原告及び一審被告安西の各控訴をいずれも棄却する。
2 原判決別紙2文目目録から同目録3項及び4項を削除して更生する。
3 一審原告の控訴費用は一審原告の、一審被告安西の控訴費用は一審被告安西の各負担とする。

判決の全文は以下をご覧ください。

〈訴訟1〉控訴審 - 判決|東京高等裁判所

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今回の判決では、安西さんが告発記事で指摘した「黒瀬らが、組織的なハラスメントとして、本件会議★1において、被告安西を威迫し、原告(カオスラ)から一方的に追い出す形で退職させた事実」(第一審判決22p)が第一審判決に引き続き認められませんでした。この裁判所の判断は、カオスラという組織の問題点や安西さんが置かれていた実際的な状況をよく検証したうえでなされたものではないと当団体は考えます。

例えば、裁判所は黒瀬氏が安西さんに退職を要求したことは認めたものの★2、「会議の前であるから、黒瀬個人の行為と推認され、一審原告(カオスラ)が組織的に退職を求めたものの一環であると認めるべき事情はない。」(控訴審判決5p)として、組織的なハラスメントがあったことを、単に時系列を根拠に否認しています。ここでは、会議に参加した安西さんを除く3名全員が、黒瀬氏の配偶者の意向に沿って安西さんが退職することで利益を得る立場であった★3という事実に目が向けられていません。黒瀬氏が会議中に安西さんの退職について言及しなかったことをもって組織的な退職勧奨を否認するという判断は、現実に即したものではないと考えます。

また裁判所は、Kが安西さんの解雇に言及したことについて、「弁護士等とは異なり法的な素養を有さず、かつ、安西と黒瀬の関係の具体的な内容及びそれが一審原告の業務に与える影響について具体的に知らなかったKにおいて一審被告安西について処分の可能性があると考えていたことは無理からぬものである」(判決文5p)とし、Kの行動は自然であったと解釈をしています。Kは会議の中で、安西さんの発言を遮りながら、このままでは自分も黒瀬氏の配偶者から訴えられる可能性がある、(実際にはないにもかかわらず)自分には役員相当の権限がある、自主退職をしないのであれば強制的に解雇をすることになるなどと発言しました。これに対し、その場にいた黒瀬氏・Fの両者とも、Kの発言の誤りの訂正を行わず、Kに威圧された安西さんが退職に同意せざるを得なくなっていく状況を黙認しました。裁判所の判断は、このような不適切な対応を行った会社の責任を追及せず、K個人の心情に寄り添ったものとなっています。会社での役職や年齢をふまえても安西さんより相対的に強い立場にあった3名が、安西さんの罪悪感を利用し、自ら会社を辞めなくてはならないと思いこんでしまうような状況をつくり出したことについて、批判的な視点をもって検討が行われるべきです。

今回の判決において裁判所は、カオスラによる退職勧奨を否認する根拠として、「(安西さんが訴訟を提起したのは)本件の訴えがなされた後であって、威迫により任意でない退職をさせられた者の行動としては不自然である。」(控訴審判決5-6p)と、安西さんの訴訟提起の時期が遅れたことを新たに提示しています。安西さんが当時、理不尽な退職プロセスや黒瀬氏のセクシュアルハラスメントによって精神的にも身体的にも消耗していたことや、経済的に余裕がなかったことを鑑みれば、すぐに訴訟を起こせなかったのはごく普通のことではないでしょうか。それを「不自然」と捉えるのは、被害当事者が置かれる実際的な状況について全く考えが及んでいないばかりではなく、裁判官の若年女性への差別意識が表れているようにさえ感じます。

以上のように、今回の裁判所の判断は、カオスラが適切な対処を怠ったことは看過する一方で、安西さんが置かれていた立場への考慮は一切なく、決して公平とは言えないものでした。この判断は、カオスラが組織内部で用いてきた非公正さをそのまま引き継いだ社会的正当性に欠けるものに思えます。安西さんは告発記事において立場の不均衡が問題の根幹であると指摘し、社会に問いを投げかけましたが、裁判所の議論は狭い知見の中での閉じたものに終始しており、これでは裁判所のもつ紛争解決機関としての機能を疑わざるを得ません。多大な時間と費用を費やし、安西さんが精神的な傷を深めながらも訴訟対応してきた結果がこのようなものであることは大変残念です。

★1 2020年6月5日に黒瀬氏、F、K、安西さんの4名で行われた会議。黒瀬氏の独断のもと解雇を強行されると感じた安西さんが、カオスラの会社としての意見を(役員であったFと訴外Uに)求めるために開催を要請した。結果、黒瀬氏が開催を知らせなかったために訴外Uは参加せず、Fの希望によりスタッフであったKが参加した。

★2 黒瀬氏が安西さんに対しラインのメッセージ上や口頭で繰り返し退職を求めていたことは、第一審判決においては「妻の要求を伝言していただけ」とされ、黒瀬氏は安西さんの退職を求めていなかったと判断されていた。

★3 会議においてKは、「二人(黒瀬氏および安西さん)を処分するっていう決定をしなければいけない」とした上で、その根拠として「だって、(黒瀬氏の配偶者は)クライアントでもありますからね」と発言している。なお、小松が言及した処分の具体的な内容は、安西さんに対しては解雇、黒瀬氏に対しては減給であり、対等なものではなかった。

参考:
退職勧奨についての双方の主張
〈訴訟1〉控訴理由書|安西
〈訴訟1〉控訴答弁書|カオスラ

第一審判決
〈訴訟1〉判決|東京地方裁判所
〈訴訟1〉判決(別紙)|東京地方裁判所 (安西さんの告発文のうち、裁判所が判決にて削除を命じた文言11箇所)

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