📝🧠すべての訴訟を終えて


2024年11月7日
Be with Ayano Anzai
2024年9月11日、東京地方裁判所にてカオスラ社員F・スタッフKが安西さんに対して提起した訴訟の判決言い渡しがありました。この判決に対し安西さんは控訴を行わなかったため、この判決をもって訴訟3は終結しました。 これをもって一連の問題に係る三つの訴訟はすべて終了したことになります。

本訴訟は、訴訟1の第一審判決および訴訟2の控訴審判決が出たよりも後の、2023年7月に社員FおよびスタッフKが提起したものです。安西さんが公開した告発記事(※1)に関しては、2023年2月に言い渡された訴訟1の第一審判決において、うち11文はカオスラに対する名誉毀損にあたるとすでに判断されていましたが、社員FおよびスタッフKは、カオスラに対してだけではなく彼ら個人に対しても賠償金を支払うよう求めて訴訟3を新たに提起しました。この訴訟提起の時点で、訴訟1および訴訟2の判決においては「退職勧奨はなかった」という彼らにとって望ましい事実認定が出ていました。訴訟3は、それらの訴訟が終結に向かう段階で、同様の判決が出ることを見込んで提起されたものといえるでしょう。

訴訟3において、社員FとスタッフKは安西さんの告発記事の公開によって名誉が毀損されたと主張し、不法行為にかかる損害賠償金の支払いを求めました。審理のポイントとなったのは、告発記事の内容のうち以下の2点です。
  1. 黒瀬と社員FとスタッフKが組織的な退職勧奨を行ったという部分
  2. スタッフKが会議において、安西さんに大声で辞職を迫るなどして一方的に退職させたという部分
安西さんによる告発記事の公開が社会的に容認される行為かどうか(不法行為となるかどうか)は、これらが事実に則しているといえるかどうかをもって判断されることとなりました。


訴訟3では証拠として、ほか訴訟と同様に2020年6月5日の会議(※2)の録音が提出されました。その中には、スタッフKが本当は職務上の権限がないにもかかわらず「自分には権限がある」とした上で安西さんのみに自主的な退職を求めたこと、退職しなければカオスラとして処分すると言及したこと、社員Fと黒瀬は終始無言ながらも時折スタッフKに同調していたことなどが記録されていましたが、この証拠から下された裁判所の判断は「一方的に被告に退職を迫っていたとか、被告を畏怖・困惑させるような言動であったなどということはできない」(※3)「(安西は)任意に、カオスラを退職する意思を表示した」(※4)というものでした。

裁判所は民事訴訟法に基づいて、すべての主張・証拠などを考慮した上で、裁判官の自由な心証をもとに事実を認定する力を持っています(※5)。しかし、今回の判決を下した裁判官らは法の専門家ではあっても安西さんが置かれていた立場については理解がなく、退職勧奨にかかる事実認定において必要であるはずの公正な視点を欠いていたと当団体は考えます。


私たち支援団体メンバーは訴訟支援の一環として、反訳の作成のため上記会議の音声を聞く機会がありました。音声では、スタッフKが安西さんの言葉を最後まで聞くことなく被せるように発言する様子が記録されており、そこでの安西さんの声からは心理的緊張が伝わってきました。加えて、社員Fと黒瀬が終始無言ながら時折スタッフKに同調していることも、3対1で安西さんを説得しているような構図となっており、この会議は対等な話し合いの場ではないという印象を持ちました。カオスラにはもう1名の代表社員がいたにもかかわらず、この3名と安西さんのみで会議が行われたことも、会議から客観的な視点が意図的に排除されたのではないかと感じました。裁判官はこのような会議の録音を聞いてもなお、自身の自由な心証を根拠に「一方的に被告に退職を迫っていたとか、被告を畏怖・困惑させるような言動であったなどということはできない」(※6)という判断をしており、この出来事を自身の経験に照らしてリアリティのある身近なものとして感じられる私たちからすれば、この判断は安西さんが経験した事実とはかけ離れていると感じます。

また、訴訟1および訴訟2の判決が証拠として提出されたことも訴訟3を考えるうえで重要な点です。関連訴訟の判決というものはひときわ重要な証拠として扱われ、裁判官の心証形成に多大な影響を与え、最初に出た訴訟の判決が次の判決に、それらふたつの判決がその次の判決に、と影響力を持ち続けます。このような構造の中で行われた審議の結果、訴訟3の判決は、想定通り訴訟1および訴訟2の判決をなぞったものとなりました。ある出来事について複数の訴訟があると聞くと、訴訟ごとに独立して審議を行い判決を出すかのように思えますが、関連する訴訟において下された判断がそれ以降の判決に大きな影響を与えるということもあります。訴訟3においても関連訴訟の結果は大きな影響力を持っていたため、安西さんは控訴しても判決が覆る見込みはなくこの訴訟に応じ続けても得るものがないと考え、控訴をせずに第一審判決をもって終結としました(※7)。

裁判所が下した判決だけを読めば「違法な退職勧奨はなかった→そのため安西さんの告発記事の内容は事実ではない→よって記事の公開は不法行為にあたる」という内容は、客観的な事実に基づいた論理的なものに思えるかもしれません。しかし、訴訟において審議されるのも、判決書の中で言及されるのも、双方の主張のうち裁判所が取り上げたごく一部です。さらに判決書において判決の根拠とされている認定事実すらも、すでに述べたように、公正な視点から導き出されたものとは限りません。このようなプロセスを経て下された判決のみを受け入れることは、実際の出来事から遠ざかることにもなり得ます。

不法行為だと認定された告発記事は、2020年8月に安西さんが、自身のSNSアカウントで公開したものです。この告発にはスラップ訴訟を提起されるリスクがあり、結果的にもそうなりましたが、安西さんは美術業界において類似の被害を阻止すること、この問題が社会的に検討されることを望み、自身の経験を自身の言葉で語る権利があると信じて公開しました。三つの訴訟を通じて安西さんは自身の行動を何度も反芻することとなりましたが、三つの訴訟に判決が下されすべての訴訟が終結した現在も、安西さんの考えに変わりはありません。安西さんと当団体は、本件に限らず立場の不均衡の上に起きるさまざまな問題に対して、より多くの人が誰かが下した結論だけではなく過程を知ること、各々が自身の意見を持ちそれを表現できること、その結果として議論が社会に開かれていくことを望んでいます。


※1|合同会社カオスラおよびその内部にいた黒瀬・社員F・スタッフKと安西さんの間で起きた退職勧奨の問題について記したもの(うち、訴訟1において削除を命じられた11文はすでに削除済み) 
※2|〈訴訟1〉準備書面3・別紙|安西
※3|判決 p16
※4|判決 p16
※5|民事訴訟法第247条 裁判所は、判決をするに当たり、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果をしん酌して、自由な心証により、事実についての主張を真実と認めるべきか否かを判断する。
※6|判決 p16
※7|訴訟1および訴訟2においては、結果として判決が覆ることはありませんでしたが、裁判の手続きの中で判決への抗議をすることが重要だと考え上告まで争いました。








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